摂食障害を根本的に治療する、または心と体を健康にする正しいダイエットには、カロリーは気にせずに、十分なたん白質の補給がもっとも大切なことはご説明しました。
そして、さまざまなビタミンやミネラルそして良質の脂質がたん白質と一緒に働いています。
そのビタミンやミネラルも、現代人は非常に不足しています。
現代人の食生活は、砂糖をはじめとする精製された炭水化物の摂取量が大きく増加しています。菓子類の消費量は、ここ40年で4倍に増えました。コンビニに行けば、魅力的なスィーツの新製品が毎日のように登場し、私たちは24時間いつでも安価で好きなだけ購入できることが当たり前となり、一見は生活が豊かに便利になったかのように思えます。
しかし過剰な糖分の摂取は、低血糖症を招くだけでなく、糖分の代謝にビタミンB1やカルシウムを大量に消費してしまいます。
このような生活と引き換えに、私たちの食生活はカロリー(糖質)は過剰でも、大切なたん白質やビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素が抜け落ちてしまっているのです。
食生活や環境の変化 |
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またハウス栽培のおかげで1年中野菜が手に入り、添加物や加工技術の発達で、私たちの口に入る食べ物の栄養素ははるかに少なくなっています。ほうれん草のビタミンC含有量は約55年前に比較して4分の1、ニラの鉄分含有量は6分の1とも云われています。
野菜に含まれる栄養素の変化 | |||||
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栄養素 | 野菜 | 1950年 | 1963年 | 1980年 | 2005年 |
ビタミンC | ほうれん草 | 150 | 100 | 65 | 35 |
カリフラワー | 80 | 50 | 65 | 81 | |
小松菜 | 90 | 90 | 75 | 39 | |
春菊 | 50 | 50 | 21 | 19 | |
鉄分 | ほうれん草 | 13.3 | 3.3 | 3.7 | 2.0 |
ニラ | 19.0 | 2.1 | 0.6 | 0.7 | |
春菊 | 9.0 | 3.5 | 1.0 | 1.7 | |
わけぎ | 17.0 | 1.2 | 0.5 | 0.4 | |
カルシウム | カボチャ | 44 | 44 | 17 | 20 |
西洋カボチャ | 56 | 56 | 24 | 15 | |
せり | 86 | 86 | 33 | 34 | |
あさつき | 85 | 85 | 120 | 20 |
わたしたち日本人は知らず知らずに、毎日およそ41グラム、年間でおよそ14キログラムもの合成添加物を摂取していると云われています。保存料などの添加物やトランス脂肪酸のオマケまでついて、解毒のために少ないビタミンやミネラルを消耗しています。
このようなエンプティーカロリーと呼ばれる食品をお腹いっぱい食べてカロリーは十分でも、栄養が不足するため、食べても食べても「栄養失調」が進みます。
このような状態を「現代型栄養失調」と呼んでも良いでしょう。
ひと昔前までは、食べるものそのものが手に入らないため、さまざまな栄養の不足はもちろんのこと、カロリー不足で痩せ細って栄養失調で亡くなる人が後を絶ちませんでした。
現代型栄養失調では亡くなる人はいませんが、体脂肪が多く「なんとなく体調が悪い」人が増えています。それは、糖質(炭水化物)などのカロリーは十分でも、大切なたん白質やビタミンやミネラルが欠乏しているからです。
このように普通の食生活でも不足傾向にある現代人の栄養状態に追い打ちをかけるがごとく、食べないダイエットをするため、摂食障害の患者さまでは現代型の栄養失調を通り越し「現代型飢餓状態」を引き起こしています。
摂食障害に陥る女性が急増しているのも、当然の結果と云えましょう。
いったん飢餓状態に陥りホメオスターシスが乱れ、その上に低血糖症が加わると、食事から摂取できる(糖質や脂質以外の)栄養だけでは本来の健康を戻すことは簡単ではありません。(ご自身で食事から十分に治療レベルの栄養を摂れるとしたら、糖質と脂質だけです。)
1958年遺伝子の実体が明らかにされ、分子生物学が誕生しました。この遺伝子の発見を基礎とした分子生物学により、生化学、医学、薬理学そして栄養学も大きく様変わりしました。
近年の栄養に関する研究では、私たちの体が必要と考えられていたよりもはるかに多くの量の栄養素が必要であることが解明されています。そのため分子整合栄養医学では、摂食障害の治療には食事から摂れるレベルよりもはるかに多い量の栄養素を補給します。
その量は、厚生労働省の定める推奨量の数十倍、場合によっては数千倍です。全身の細胞の分子の異常(そのほとんどは、栄養の不足)を整えるためには、私たちの全身の細胞は実際にそのくらいの十分な量を必要としているのです。
多くの方は、厚生労働省の推奨量を満たしていれば栄養は十分であると考えますが、それでは不十分なのです。
現代人のわたしたちにとってビタミンは当たり前ですが、ビタミンが発見されたのはおよそ100年前のことです。ビタミンが発見されるまでは、たくさんの人たちが壊血病や脚気で命を落としました。戦後、これらの疾病を予防するために、当時の厚生省が「栄養所要量(推奨量)」を決めました。
つまり推奨量とは、「欠乏症」を予防するための基準であり、生命を維持するための量です。云わば、飢餓で死なないために必要なための最低限でしかありません。
健康を維持できる、理想の基準ではないことを知ってください。
- ビタミンCの欠乏 - 壊血病
- ビタミンB1の欠乏 - 脚気
- ビタミンAの欠乏 - 鳥目などの症状
- ビタミンDの欠乏 - くる病
- ビタミンB3の欠乏 - ペラグラ
- ビタミンB12の欠乏 - 悪性貧血
そんなに大量の栄養素をつかうことは危険ではないのか?と質問される方もいらっしゃいますが、むろん推奨量を基準としたら多いと感じるかもしれません。
品質の保証されたサプリメントを使い、医師が生化学検査の結果を元に必要量を決めるため、危険性の心配はありません。
もちろん例外はありますが、摂食障害は「栄養失調」と「低血糖症」などが原因の体の病気です。ですから、必要がないのに気軽に向精神薬を飲むことはお勧めしません。飢餓状態の弱った体に、生体内物質とは異なる化学物質を入れると弱った肝臓は処理できずに、副作用が強く出てしまいます。そして摂食障害が体の原因で起きている以上は、向精神薬を飲んでも効を奏することはありません。
栄養が不足しているために摂食障害を引き起こしているのであって、けっして「薬」が不足して摂食障害を起こしているわけではないのですから。