摂食障害の改善例

摂食障害 改善例1

主訴

摂食障害(過食と嘔吐)、月経不順、躁うつ病、パニック障害の疑い
女性 初診時22歳
中学1年生から、常にダイエットをしている。6~8㎏の増減を、繰り返している。
17歳から、過食と嘔吐を、毎日多いときで8~10回繰り返している。
空腹感に襲われると、1日中家で食べて吐くことを繰り返し、大学を休むこともしばしばある。
過食して嘔吐後は、強いうつ症状やパニック症状になり、17歳からリストカットを繰り返す。
心療内科で、躁うつ病、パニック障害の疑いと診断され、抗うつ剤(ルボックス)を処方されたが、副作用が出たため、自己判断で服用を中止した。
疲労感が強く、朝から疲労を感じる。嘔吐のためか、浮腫みが気になりだした。
身長165㎝で体重が43キログラムまで落ちた時には、生理が半年止まった。現在は、不順気味であるが月経は再開している。
母親が強い危機感を感じ、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

心療内科で、カウンセリングを定期的に受けている。

治療方針

食事内容および血液データ上、非常に強い栄養失調が考えられました。
便通は、便秘と泥状便を繰り返し、リーキーガッド症候群が予測されます。未消化たん白のトランスロケーション→過剰な免疫反応→視床下部の炎症→疲労や過剰な食欲を引き起こす為、腸内環境の改善が非常に大切です。

貧血、強度の鉄欠乏性貧血、タン白質不足、ビタミンB群欠乏、亜鉛欠乏などがあると考えられました。たん白質を表す数値は一見問題なさそうでしたが、タン白質不足による血液濃縮があるとマスクされるため、食事内容を考慮すると強いたん白質の不足が疑われます。
また、空腹時の血糖値が非常に低いため、機能性低血糖症が推測されます。
これらはすべて摂食障害の原因となるものです。

この方には、まず栄養失調を治すために栄養療法(サプリメント療法)と、リーキーガッド症候群を治療するために腸内環境を整えるプレバイオティクスやハーブ類、そして低血糖症を治すための食事療法を指導しました。

血液データ

基準値 初診時 3ヵ月後 6ヵ月後
好中球 40.0~75.0 66.8 69.3 55.0
リンパ球 18.0~49.0 28.2 26.1 40.1
CRP 0.30以下 0.09 3.55 0.25
ヘモグロビン 11.5-15.0 10.1 12.3 13.1
ヘマトクリット 34.8-45.0 34.3 38.5 41.1
アルブミン 6.7-8.3 4.60 4.44 4.85
GOT 10-40 23 31 25
GPT 5-45 14 39 21
γ-GTP 30以下 30 26 20
グルコース 70-109 73 79 78
亜鉛 64-111 75 123 120
フェリチン 4.0-64.2 5.3 30.1 90.3

ドクターコメント

過食症の患者さまでは、「一日中食べるのを我慢しているが、『プチッ』といったんスイッチが入ると、食べはじめて止まらない」とおっしゃいますが、それには主に3つの原因があります。

・栄養失調
・低血糖症
・リーキーガッド症候群

これらが複合的に絡み合い、過食症状を引き起こしています。この患者さまは、3つの原因を併せ持っていました。
まず過食を引き起こす大きな原因のひとつが、「低血糖症」です。
甘いものや精製された炭水化物を食べると、血糖値が急激に上り、インスリンという血糖値を下げるホルモンが過剰に分泌されます。その結果、逆に血糖値が下がり過ぎてしまい、脳を守るために「過剰な食欲」が起こります。

このような過剰な食欲を感じた時に、とくに甘い物が食べたくなるのは、下がり過ぎた血糖値をすぐに上げようと生存本能が働くためです。
この患者さまは体重で8㎏前後のリバウンドを繰り返していますが、これは別名「太らせるホルモン」とも呼ばれるインスリンが過剰に分泌され続けているため、体重を安定して維持することができないためです。
たくさん食べても太らない人と、少し食べても太ってしまう人の違いは、カロリーではなく、太らせるホルモン「インスリン」の分泌量が関与しています。
より詳しく知りたい方は、別名太らせるホルモン「インスリン」を、お読みください。

また、過食嘔吐後の強いうつ症状、不安感、パニック症状、そして自己喪失感を感じるのは、低血糖時に副腎髄質からノルアドレナリンが分泌されるために起こる典型的な精神症状です。衝動的にリストカットを繰り返してしまう症状も、低血糖症が関係していると考えられます。
この患者さまでは低血糖症の症状が強いため5時間糖負荷検査は、あえて実施しませんでしたが、初診時のグルコースが空腹時で73であることと、症状から低血糖症が疑われます。
そして、強い栄養失調もありました。

初診時の血液データでもっとも顕著に不足があったのは、鉄の不足です。潜在性鉄欠乏状態のみならず、強い貧血もありましたが、症状の改善とともに3ヵ月目、6ヵ月目の血液データは順調に改善しています。
フェリチン値は月経のある女性では50程度は必要ですが、初検時のフェリチン値が一桁で、強い潜在性鉄欠乏状態(隠れ貧血)です。これでは、強い疲労感や月経不順、そして低血糖症をより悪化させるため、貧血の治療が最優先です。

貧血では、低血糖症と連動して、さまざまな肉体的そして精神的症状を引き起こすためです。エネルギー供給に関与し、不足すると非常に強い倦怠感や無気力、うつやイライラ、冷え性などの不定愁訴にも繋がります。
ヘモグロビンは初診時10.1と基準値を割っていますが、治療半年後13.3まで上昇しています。ヘモグロビン値の上昇とともに、過食頻度や不定愁訴が改善しています。
この患者さまの治療は、最初の1クール(3ヵ月間)では、主に栄養失調と低血糖症の改善を中心に行いました。

しかし、治療3か月後の血液検査のデータから、顆粒球>60、リンパ球<30・CRP高値・血清銅高値・α2グロブリン高値が継続し、体内の何らかの炎症反応の継続が考えられること。そして、頑固な便秘のため下剤を使用していることもあり、腸内環境の改善を目的とした治療も加えました。

便秘も下痢も腸内の善玉菌の減少が主な原因です。腸内環境の悪化は、リーキーガッド症候群を招き、過剰な免疫反応→視床下部の炎症→疲労や過剰な食欲を引き起こすことが分かっています。このように悪玉菌の優勢な腸内環境では、過剰な食欲を止めることができません。
栄養療法と低血糖症のための食事療法のみでは、症状が残る場合や治療のスピードが遅い場合は、腸内環境を整える治療が必要です。
この患者様は、強い疲労感の改善、精神的な安定、そして過食嘔吐は激減しました。

経過

治療開始から6か月後には、過食症状は毎日最大10回から夜1回のみに減り、強い疲労症状から解放され大学にも毎日通えるようになっています。

うつ症状やパニック症状などの精神症状、疲労感は、治療開始から2か月後には激減しました。1日中あった過食衝動が夜のみに減ったので、生活をしていくのが楽になった。強い空腹に襲われ、外出できずに1日中過食嘔吐する生活から脱却できたことが、なによりも嬉しいとのこと。

過食症状には波があるため、ストレスを感じると、過食衝動にかられ精神的に落ち込むこともある。
過食症状がなくなるまでは、しっかり治療していきたい。とのことでした。

摂食障害 改善例2

主訴

過食嘔吐、拒食症、無月経、不眠症、うつ症状 女性 初診時20歳
毎日2~3回は、過食と嘔吐をしている。
3年前から軽い気持ちで始めたダイエットが、だんだんエスカレートしてほとんど何も食べられなくなり48㎏あった体重は1年後には31㎏まで落ちた。
それ以来、無月経が続いている。
ダイエット開始から、1年と6か月間拒食症状が続いたが、その後は過食が始まった。太るのが怖いので、過食をすると必ず嘔吐するようになった。野菜、コンニャク、間食のアメ以外の食べ物を食べたときは、必ず吐かなくてはならないと決めている。
下剤は、吐ききれなかったときに使用する。便通は、問題ない。
心療内科にて向精神薬の処方をされたが、自己判断で飲んでいない。
強い疲労感、浮腫み、不眠症、そして脱毛が悪化し、当院を受診。

既往歴

なし

治療歴

心療内科でのカウンセリング療法のみ。

治療方針

食事内容および血液データ上、強い栄養失調が考えられます。貧血、タン白質不足、ビタミンB群欠乏、亜鉛、銅欠乏など、血液データから読み取れます。
ヘモグロビン値は基準値を下回り貧血があり、肝酵素が上昇し低体重の脂肪肝、典型的な摂食障害による飢餓状態です。

また、空腹時にも関わらず血糖値は65、HbA1cは4.3と低下していることから、低血糖の兆候を認めました。これらはすべて摂食障害の原因となるものです。
この患者さまの初診時の体脂肪率は8.7%、そして血液データより強い飢餓状態であることから、まずは栄養失調を治すために栄養療法(サプリメント療法)と、低血糖症を治すための食事療法を指導しました。

血液データ

基準値 初診時 3ヵ月後 7ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 10.7 12.6 11.9
総蛋白 6.7-8.3 6.2 6.8 6.8
総コレステロール 120~219 178 161 164
GOT 10-40 44 89 39
GPT 5-45 49 101 37
γ-GTP 30以下 44 77 40
尿素窒素 8.0-20.0 5.4 20.9 11.5
グルコース 70-109 63 68 70
亜鉛 64-111 68 126 102

ドクターコメント

過食症状(過食嘔吐を含む)でお悩みの患者さまに、「摂食障害のきっかけは、何ですか?」と質問すると、ほとんどの方が「きっかけは、ダイエット!」と答えます。
そして、軽い気持ちで始めたダイエットが拒食症になり、低体重が継続すると生きるための生存本能が働くため、しばらくして過食または過食嘔吐に転じます。
この患者さまの場合も、標準体重よりも34%も少ない低体重であったため、過食症に転じています。

この患者さまの初診時の空腹時の血糖値は63と非常に低く、基準値内ですがHbA1cは4.3と低値、基準値を超えてグリコアルブミンは16.9より、反応性低血糖症が疑われます。低体重のため、5時間糖負荷検査はあえておこないませんでした。

空腹時インスリン0.7と低値でしたが、過食嘔吐などのために食後のインスリン過剰分泌がある患者様では、空腹時のインスリンは低値を示すことが多くあります。
インスリンの分泌に関与する亜鉛と、インスリンの感受性を高めるマグネシウムを、処方しました。

そして、GOT・GPT・γ‐GTPの肝酵素が基準値を超えて高値より、ビタミンB群の強い不足が考えられます。ビタミンB群はダイエットビタミンとも呼ばれ、また脳の食欲中枢と満腹中枢が機能するための大切な神経伝達物質の材料です。
拒食症や過食嘔吐で低体重の場合は、至適量のビタミンB群などの栄養を補給することで、一旦は肝酵素は100程度まで上昇し、その後理想値に戻りますが、上記の検査数値もそのように推移しています。
GOT<GPTは、脂肪肝も考えられます。

脂肪肝というと肥満と連想しがちですが、摂食障害で低体重の痩せている患者さまにも必ず起こります。ヘモグロビン値は10.7と貧血もあり、至適量のヘム鉄とビタミンB群の補給を行いました。
そして、脂質の慢性的な欠乏による「脳の機能低下」も考えられます。

脳内の乾燥重量の60%は脂肪酸ですが、脂肪酸プールの約30%は毎日新たに合成が必要で、十分な脂質の摂取が必要です。
脳内のコレステロール低下はセロトニンとセロトニン受容体の結合抑制をきたし、体温調節・質の良い睡眠・イライラや不安などの精神症状・摂食(満腹感)の調節ができません。

この患者さまでは、初診時の総コレステロール値<180より、オメガ3脂肪酸の処方をしています。
またトリプトファンの不足が、ボディイメージに対する評価を下げ、前向きな考え方や幸せな気分とも関係しています。

トリプトファンは、セロトニンの前駆物質(材料)であり、たん白質の慢性的な欠乏は脳内のセロトニン量の低下に直結します。セロトニンは、前向きな思考、リラクゼーション、健康的な食行動、そして幸せ物質そのものです。
低体重の患者さまでは、「(痩せすぎているのに)絶対に太りたくない!!」や「(十分に痩せているのに)まだ、私は太っている!」と、自身のボディイメージに対して客観的な評価ができない場合がほとんどですが、これはたん白質の欠乏による脳(=体)の機能低下であることが分かっています。
この患者さまの初診時の血液データより、総蛋白は6.2、尿素窒素は5.4と、重篤なたん白質の不足が予測され、プロテインでのたん白質の補給に加えアミノ酸の点滴もおこないました。
また、セロトニンの9割は腸で作られるため、腸内環境の整備もあわせておこないました。
この患者さまは、栄養療法に加えて、低血糖症ための食事療法をしっかり実践していただいたため、治療スタートから2ヵ月後には毎日2~3回の過食嘔吐の頻度が、ゼロ回にまで減っています。素晴らしい改善です。

経過

過食嘔吐の頻度は、最初の1クール(3ヵ月間)で毎日2~3回からほぼなくなった。疲労感もだいぶ改善し、早足で歩くことができるようになった。一番心配していた薄くなっていた髪の毛も、生えてきてホットしている。
治療6か月後には、眠れるようになってきたものの、まだ眠りが浅いのが気になっている。ストレスを感じると過食をしてしまうことがあるが、少しくらいなら気にしないことにしようと考えられるようになった。
まだ月経が再開しないので、頑張って治療を継続しようと思っています。

摂食障害 改善例3

主訴

摂食障害(過食と嘔吐)、無月経 女性 初診時18歳
4年前から、過食と嘔吐を、毎日1回繰り返している。
小学校6年生からバレエを始め、絶対に太ることができないために、常にダイエットをしていた。
食べるのを我慢できないが、太りたくないから吐き始めた。
体重が33キログラムまで落ちてしまい、生理が半年止まった。
非常に強い疲労感を訴え、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

心療内科で、抗精神薬を処方されたが効果がなかったので、自己判断で服用を中止した。
心療内科でカウンセリングを3回受けたが、あまり効果を実感できなかった。

治療方針

食事内容および血液データ上、非常に強い栄養失調、すなわち鉄欠乏、タン白質不足、ビタミンB群欠乏、亜鉛欠乏などがあると考えられました。一見貧血はなさそうに見えますが、タン白質不足による血液濃縮があるとマスクされるため、隠れた貧血があることが予測されました。
また、血糖値・グリコアルブミンの低下から、低血糖の兆候を認めました。これらはすべて摂食障害の原因となるものです。
また、運動量が多いことも関係していると思われますが、間接ビリルビンが高値であることから、血管内溶血(赤血球が壊れやすい)状態であることがわかりました。

この方には、まず栄養失調を治すために栄養療法(サプリメント療法)と、低血糖症を治すための食事療法を指導しました。

血液データ

基準値 初診時 7ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 12.1 13.7
ヘマトクリット 34.8-45.0 39.0 42.4
GOT 10-40 25 28
GPT 5-45 11 18
γ-GTP 30以下 12 16
間接ビリルビン 0.2-1.0 1.5 1.1
グルコース 70-109 70 69
グリコアルブミン 12.3-16.5 12.8 13.4
インスリン 1.7-10.4 ! 1.0 3.5
亜鉛 64-111 75 113
フェリチン 4.0-64.2 4.1 71.8

ドクターコメント

過食症の患者様は、「一日中食べるのを我慢しているが、『プチッ』といったんスイッチが入ると、食べはじめて止まらない」とおっしゃいますが、それにはさまざまな原因があります。

まず考えられる大きな原因のひとつは、「低血糖症」です。

甘いものや精製された炭水化物を食べると、血糖値が急激に上ってしまうので、インスリンという血糖値を下げるホルモンが過剰に分泌されます。その結果、逆に血糖値が下がり過ぎてしまい、今度は脳を守るために食欲が起こります。同時に血糖値を上げるためにアドレナリンなどの「攻撃ホルモン」が分泌され、いわゆる「キレる」状態になってしまうので、発作的に過食を起こしてしまうのです。
もうひとつの原因は、「脳の栄養不足」です。

ビタミンB群は、脳の食欲中枢と満腹中枢が機能するための大切な神経伝達物質の材料ですが、無理な食事制限や過食による糖質過多で欠乏状態になります。これを治すためには治療レベルの量のビタミンB群が必要です。
亜鉛は、過食と拒食の両方に関係しており、適度な食欲と満腹感を得るためには必須の栄養素です。
また、潜在性鉄欠乏状態(隠れ貧血)では、強い疲労感や無月経、そして低血糖症をより悪化させるため、貧血の治療が大切です。

この患者様の初診時の血液データは、まさに上記のような状態であることを示していました。しかし7ヶ月の治療で、データは素晴らしく改善していました。
まず、4.1と極度に低値であったフェリチン(貯蔵鉄)が、7ヵ月後には71.8と見事に上昇しています(フェリチンは、男性や閉経後の女性では150~200、月経のある女性では100必要)。鉄はエネルギー産生・脳機能・コラーゲン合成などさまざまな機能に必要であり、摂食障害にも関係します。
また、筋肉にも多く含まれ、エネルギー供給にかかわっているため、不足すると運動でのパフォーマンスを十分に発揮できなくなります。

ヘモグロビンは12.1とやや低め程度でしたが、治療後13.7に上昇していることから、隠れた貧血があったことがわかります。
GOT・GPT・γ-GTPの低値はビタミンB6不足の不足を意味しますが、これも改善しています。
亜鉛も75と低値でしたが113に上昇しています。
グリコアルブミンが、12.8から13.7まで上昇されていますが、これは低血糖の兆候が改善したことを 表します。
空腹時インスリンが初診時は1.0と低値でしたが、過食嘔吐などのために食後のインスリン過剰分泌がある患者様では、空腹時のインスリンは低値を示すことが多くあります。7ヵ月後に3.5と上昇していることはインスリン分泌能が改善していることを推測させる結果です。

この患者様は、栄養療法によりさまざまな体調不良が改善し、過食嘔吐も減りました。精神的にも安定してきたそうです。体調がよくなったため、バレエの練習にもより励むことができるようになり、非常に喜ばれました。

経過

2ヶ月目が経過して、過食と嘔吐の頻度が激減した。バレエを続けることに自信が持てないくらいの疲労感がなくなり、以前のように元気になった。

摂食障害 改善例4

主訴

摂食障害(拒食と嘔吐) 女性 初診時20歳
過食はしないが太るのが怖いので、何かを食べると嘔吐をする。
15歳頃より食べないダイエット(1か月に-6.7キロ)にはじまり、17歳頃から精神的ストレスで体重 が増え、食べ吐きをくりかえすようになった。
通常の量を食べると、太ってしまうのではないかという恐怖感が、3年間続いている。
食べ吐きを繰り返しているので、何かを食べて吐かないと、すぐに太るようになってしまった。以前 より、とても太りやすくなったと思う。体調が悪く、胃も重だるい、精神的にも弱くなりすぐに泣いて しまう。
とにかく毎日が疲れて体力がなく、人ごみの多い場所に行くと1日中横になっていないと動けない。
もともと月経不順であったが、37キログラムになってから無月経になった。
2か月前から自律神経が乱れ、頭(頭重感、圧迫感)、耳(耳下の圧迫感、聴力低下)などの症状が出てきたので、当クリニックに受診した。

既往歴

なし

治療歴

耳鼻咽喉科で、血行を促す薬を処方され服用してみたが、頭と耳の違和感が取れない。

治療方針

この患者さまの摂食障害の原因として、長年の無理なダイエットと嘔吐による「極度の栄養失調」、および知的レベルが大変高く「完璧主義者」であることが、体重に過剰にこだわる心理的な要因を作り出しているのではないかと考えられました。これらの治療のため、栄養療法による身体面からの治療と、サイモントン療法による心理的なサポートを行いました。

栄養療法として治療レベルでのビタミンB群(食欲中枢と満腹中枢が機能するための神経伝達物質の材料)の投与と、食欲コントロールに必須の亜鉛、タン白質不足、潜在性鉄欠乏性貧血の治療を行いました。ヘモグロビンは基準値内でも、貯蔵鉄が著しく低値の場合、まず食欲のコントロールができませんし、強い疲労感、頭痛、無月経などの原因となるため、治療上重要なポイントになります。

頭痛や耳の圧迫感・閉塞感は、「低血糖症」でよく起きる症状です。データ上低血糖の兆候は明らかではありませんが、5時間糖負荷試験では低血糖症と診断されました。このため、血糖値が不安定になるような甘いものや白米などの糖質(炭水化物)は控え、タン白質や野菜を中心とした食事を指導しました。

血液データ

基準値 初診時 7ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 13.5 13.4
ヘマトクリット 34.8-45.0 44.1 42.6
GOT 10-40 19 27
GPT 5-45 16 20
γ-GTP 30以下 10 25
グルコース 70-109 79 82
グリコアルブミン 12.3-16.5 15.5 14.9
インスリン 1.7-10.4 1.6 4.7
亜鉛 64-111 101 114
フェリチン 4.0-64.2 13.5 32.1

ドクターコメント

過食というよりも拒食傾向があり、せっかく食べた時でも吐いてしまっていた患者様です。拒食の患者様は、非常にまじめな性格で、何でもキチンとやらないと気がすまない「完璧主義者」である方が多いです。この方にも「理想の体重」があり、それに非常にこだわるがゆえに、極端な栄養失調に陥ってしまっていました。

このようなケースは、もともとの性格的なものに加え、栄養不足が脳での正常な思考や判断を妨げてしまうため、相乗効果で体重に異常にこだわるある種の「強迫観念」を作り出すと考えられます。この場合、ビタミンB群や鉄・亜鉛・タン白質などの栄養素をしっかり補充していくと、そのような強迫観念(「ねば・べき症候群」)が改善していくことが多いです。
それに加え、心理療法(当院で行った治療はサイモントン療法)を行い、なぜ体重にこだわるのか、という心理的な原因を掘り下げていったことも功を奏し、心境に大きな変化があったことも、摂食障害が改善することにつながりました。
もちろん、低血糖症の治療として食事の指導も行いました。

栄養状態ですが、この患者様の血液データは一見それほど問題があるようには見えません。しかし、血液濃縮や低栄養による脂肪肝、タン白質の異化亢進などがあると、見かけ上データが問題ないように見えることがよくあります(「マスキング」)。

顕著なのは、フェリチンが13.5と低値でしたが、6月後には32.1と改善しています(フェリチンは、男性や閉経後の女性では150~200、月経のある女性では50必要)。
GOT・GPT・γ-GTPの低値はビタミンB6不足の不足を意味しますが、これも改善しています。亜鉛は明らかに低値ではありませんでしたが、症状と食事内容から補給を行い、114に上昇しています。
グリコアルブミンが、12.8から13.7まで上昇されていますが、これは低血糖の兆候が改善したことを表します。

これらの治療の結果として、精神的に安定し食事の量がコントロールできるようになりました。

経過

治療後2ヶ月目に、月経が再開した。3ヶ月経過したころから、吐かなくなった。普通の生活をしても、疲れなくなり体調が良くなった。

摂食障害 改善例5

主訴

摂食障害(過食と拒食の繰り返し)・うつ・不眠症 女性 初診時23歳
11歳から14歳まで、家族間の精神的ストレスがあり、過食気味となり、51キログラムから12キログラム太ってしまった。その後、14歳でダイエットを始め拒食症に移行し、体重は63キログラムから36キログラムに激減した。むくみと寒さ、そして体力がなくなり、歩行困難になって入院した。
17歳で、再び過食に転じ体重は63キログラムに戻った。自殺願望が起こりリストカットを繰り返し、4ヶ月間入院治療をした。抑うつ剤や睡眠薬などの内服治療と、カウンセリングを受けたが、より症状が悪化した。
その後も、1~2週に1回の過食が続くが、体重は安定していた。
このところ様々なストレスが重なり、この1か月で53キロから61キロへ体重が増加した。
過食をしてはいけないというプレッシャーで友達にも会いたくない。
むくみ、不眠もずっと続いているような状態で、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

15歳の時、心療内科で抗うつ剤や睡眠薬を処方され、3~4ヶ月服用したが症状ひどくなった。
17歳の時、4ヶ月間入院治療(内服、カウンセリング)したが、かえって悪化した。

治療方針

この患者様は、拒食から過食に転じ、その後体重の増減が10キロ以上を繰り返し、うつ症状も併発しています。摂食障害を引き起こした原因は、強い家族からのストレスが発端となった「極端なダイエットの繰り返しによる極度の栄養失調」と、「低血糖症」であると考えました。そのため、栄養療法による身体的な治療と、サイモントン療法による心理的なサポートを行いました。

まず、治療レベルでのビタミンB群(食欲中枢と満腹中枢が機能するための神経伝達物質の材料)の投与と、食欲コントロールに必須の亜鉛、タン白質、鉄などの補給を行いました。この患者さまの場合、初診時のヘモグロビンも貯蔵鉄も基準値内でしたが、脂肪肝によるマスキングと考えられたため、実際は鉄欠乏状態であると考えられました。鉄欠乏状態では、食欲のコントロールが難しくなりますし、うつ症状を起こす場合があります。また、低血糖症も悪化させます。

5時間糖負荷検査を行ったところ、「無反応性低血糖症」でした。無反応性低血糖症では、常に血糖値が低い状態であることから、うつ状態になりやすく、アドレナリンやノルアドレナリンなどのイライラや不安を引き起こす神経伝達物質が出続けるために、リストカットを起こすことがよくあります。このため、食事管理を厳密に行いました。

分子整合栄養医学による改善データ

基準値 初診時 6ヵ月後 12ヵ月後 2年後
ヘモグロビン 11.5-15.0 14.5 14.0 14.1 15.1
ヘマトクリット 34.8-45.0 42.7 40.8 41.7 45.4
MCV 85-102 99 95 99 101
GOT 10-40 68 24 27 23
GPT 5-45 128 21 19 17
γ-GTP 30以下 25 9 10 12
グルコース 70-109 78 80 79 71
グリコアルブミン 12.3-16.5 12.5 13.2 13.5 13.2
インスリン 1.7-10.4 8.8 2.9 1.3 3.7
フェリチン 4.0-64.2 76.1 69.2 102 97.2

ドクターコメント

かなり極端な体重の増減を繰り返してこられた方です。
うつ症状にはいろいろな原因がありますが、無反応性低血糖症でした。通常ブドウ糖を飲むと、血糖値は飲む前の50%以上は上昇するのですが、上昇しない(検査データ上、上昇しているように見えない)のが無反応性低血糖症です。脳のエネルギー源である血糖が常に低い状態が続くため、慢性疲労やうつ症状を起こすことが多いパターンです。この方の場合、無反応性低血糖症に加え、極端なダイエットの繰り返しによる極度の栄養失調(カロリーは多いがタン白質やビタミン・ミネラルなどの微量栄養素が少ない)が、さまざまな症状と摂食障害の原因と考えられました。

食事のコントロールをきっちり行うこと、栄養療法を行うこととで、症状はかなり改善しましたが、食事のコントロールがうまくいかないと過食が起こりやすくなってしまうので、根気よく治療をすることが必要と思われます。
運動を行うと血糖調節が安定しやすくなりますので、それによって症状が改善することも多いです。

経過

治療後1ヶ月で、気持ちが前向きになり、うつが良くなり、笑顔が増えた。過食は、治療をしている安心感があるのか減っている。
治療後2ヶ月、過食がピタリと止まった。落ち込んで死にたくなることが不思議になくなっている。 不眠症がなくなり、良く眠れるようになった。月経前は、体調が悪いが、むくみが軽くなり、体重が減ってきた。
1年後経過、症状に波がある。精神的なストレスがあると、過食をしてしまう。体重は、10キログラム減った。
強いストレスを感じると、甘いものに手をだしてしまう。油断していると、低血糖症の症状がでてきて、過食してしまう。

摂食障害 改善例6

主訴

摂食障害(過食と嘔吐)、月経前症候群(PMS)、慢性疲労 女性 初診時35歳
高校1年生の時から、摂食障害の症状がはじまった。甘いもの(まんじゅう1箱、カステラ一本、あんこ1kgなど)を食べ続けても満腹にならない。結局食べ過ぎて気持ちが悪くなり、嘔吐を毎日続けていた。下剤も使っていた。高校1年で50キログラムの体重が、3年では60キログラムまで増加した。その後は、過食とダイエットの繰り返しで、10キログラム位程度の体重の増減は頻繁にあった。ひどい時は、1日に5~6キログラムの体重の増減があったという。

22歳頃より運動するようになり、今でも過食症はおさまっていないが、嘔吐はしなくなった。 20代では、生理前の1週間くらいがいわゆる月経前症候群の症状があった。だるい、浮腫み、過食、イライラや気分の落ち込みなどの精神症状など多彩である。
この3年間は、生理前の3週間症状が続くようになり、体が「シンドい」ので、1日中横になっている。調子が良いのは、1ヶ月のうちの1週間だけ。
3年前に、突発性難聴と過呼吸になり、薬物治療を行って治ったが、それからずっと耳鳴りが続いている。

この3年間、うつ症状がひどくなってきた。
自分の正常な状態が分からなくなったので、根本から治療したいと考え、当クリニックを受診した。

既往歴

アルコール依存症、突発性難聴、自律神経失調症

治療歴

27歳の時、心療内科で抗うつ剤、安定剤、睡眠薬を処方され、1ヶ月間服用したが症状が悪化して中止した。
婦人科で、ピルを処方され内服したが、症状が悪化し中止した。

治療方針

初診時のヘモグロビンとヘマクリットは参考基準値内にあり、一般的には貧血とは診断されませんが、貯蔵鉄が26.2と低値です。赤血球、ヘモグロビン、ヘマクリットが一見高くなっているのは、強いタン白質不足による血液濃縮のためであると予測できます。赤血球、ヘモグロビン、ヘマクリットは基準値内でも、貯蔵鉄がこのようにかなり低値の場合は、新陳代謝が低下し太りやすく、うつ症状などの精神症状を伴い、また低血糖の症状を悪化させますので、自分自身で食欲のコントロールをすることは難しくなります。このような患者様の場合、(自覚症状の個人差はありますが)貯蔵鉄(フェリチン)の値がおよそ40~60くらいからさまざまな症状が改善され、体調が良くなったとおっしゃる方が多いです。
そのため「栄養失調(貧血を含む)」と、5時間糖負荷試験は行わなかったものの「低血糖症」とみなして、治療を行いました。

分子整合栄養医学による改善データ

基準値 初診時 4か月後 9か月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 14.3 17.7 13.9
ヘマトクリット 34.8-45.0 44.5 44.6 42.2
GOT 10-40 20 24 21
GPT 5-45 13 25 14
γ-GTP 30以下 12 15 17
尿素窒素 8-23 7.0 12.0 13.4
尿酸 2.5-7.0 3.0 3.4 4.3
グルコース 70-109 86 90 81
グリコアルブミン 12.3-16.5 12.7 12.6 13.6
インスリン 1.7-10.4 4.2 3.3 1.8
亜鉛 64-111 82 91 106
フェリチン 4.0-64.2 26.2 40.9 110

ドクターコメント

女性の摂食障害で、月経前症候群や生理不順、無月経などの婦人科疾患と、うつ症状などの精神疾患を併発される患者様はたいへん多く見受けられます。また、この患者様は、突発性難聴やアルコール依存症もありました。

この方のように多くの症状や病気を併発している方は多いですが、それらの病態の根本原因の多くは、「ガソリン不足」です。病気を「車の故障」に例えると、「ガソリン不足(8割)=栄養不足などによる機能異常」と「エンジントラブル(2割)=器質的な異常」にわけることができます。たとえば「貧血」は、女性に多い典型的な「ガソリン不足」ですが、これは無理なダイエットや過食や嘔吐による栄養失調で、程度の差はありますが、引き起こされることが多い症状です。

月経前症候群、更年期障害、生理不順、無月経などの婦人科疾患、うつなどの精神疾患、突発性難聴や耳鳴りなどなどの原因の多くは、貧血(ガソリン不足の代表)から起きることが多いことは、是非知っていただきたいことのひとつです。一般的には、「貧血」というと、たちくらみやめまいなどの症状を想像しますが、実際には「貧血」の症状は上記のようにじつに多彩です。

また、一般の検査では正常で、貧血ではないと診断された患者さまでも、より詳細に検査を行うと、「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏性貧血)」が見つかることが少なくありません。この方は低かったフェリチンが、治療3ヶ月後には40.9まで上昇していますが、処方どおりにサプリメントが飲めた場合は、およそ数値は30以上は改善するのが一般的ですから、初診時の貯蔵鉄は実際にはその半分程度と考えられます。この原因はおそらく低蛋白と糖質過多による脂肪肝と考えられますが、このように実際の数値よりもいろいろな理由でデータが高く見えてしまう(問題ないように見えてしまう)ことはよくあります(マスキング)。栄養療法をやりながら、何回か血液検査をしていくと、マスキングが取れて本来の数値が表れてきます。

経過

治療3ヶ月後、過食症状はほとんどおさまったが、ストレスがたまるとまだ食べてしまう。月経前症候群の自覚症状は、10→5に軽減し、だいぶ改善した。

治療1年後、「去年と比べると「天と地」の違いほど、良くなった。治療当初は、ほんとうに良くなるのか疑心暗鬼な部分もあったが、今では信じられない。」と、本人のコメント。
治療開始から1年9ヶ月後に、結婚。治療前の3年間は、慢性疲労とうつの症状が悪化し、ほとんど毎日寝たきりの状態だったので、結婚はあきらめていたそう。まさか結婚できるとは、当時を思うと信じられない、と喜んでいた。

摂食障害 改善例7

主訴

摂食障害(過食症)、うつ 女性 初診時21歳
16歳よりうつ症状が出始めた。18歳よりダイエットをはじめ、53キログラムから36キログラムまで体重が減少。その後過食が始まり(嘔吐はない)、徐々に体重が増え、うつ症状が悪化し、不登校、やる気が起きない、パニック発作のような症状、イライラ、むくみ、冷え、倦怠感、疲れやすさ、ボーっとしているなどの症状もでてきた。
リストカットしたため精神科に入院し、その後は心療内科で治療を受けた。
症状の改善がなかなかみられないため、元気になるよう根本的に治療したいと考え、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

心療内科にて、投薬治療とカウンセリングを受けているが、効果は感じられない。

治療方針

明らかにうつの症状が強く、体重に対する強いこだわり、ネガティブ思考が強い患者様でした。血液データではγ-GTP↑およびGOT↑より、脂肪肝の傾向が見られた。

5時間糖負荷試験を行ったところ、非常に激しい血糖値の乱高下と、インスリンの過剰分泌が認められました。血糖値の乱降下は脳細胞への影響が非常に大きく、さまざまな精神的な症状や疲労倦怠などに関係していると考えられるため、糖質制限と血糖値を安定させるような栄養素の補給(鉄・ビタミンB群・亜鉛・クロミウムなど)を行いました。

また、心理的サポートとして当院でサイモントン療法を、その後患者様の希望で対人関係療法(他院)を行いました。
途中甲状腺機能低下症があることがわかり、それに対する治療も行いました。

血液データ

基準値 初診時 7ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 11.8 13.4
ヘマトクリット 34.8-45.0 37.4 42.5
GOT 10-40 22 41
GPT 5-45 31 82
γ-GTP 30以下 10 38
グルコース 70-109 79 85
グリコアルブミン 12.3-16.5 14.5 13.5
インスリン 1.7-10.4 2.2 3.0
亜鉛 64-111 90 147
フェリチン 4.0-64.2 207 151

ドクターコメント

初診時データでは、まず貧血があることから、鉄やタン白質・ビタミンB群などの栄養素が複合的に不足していることが予想されました。鉄不足はうつ症状の原因となる代表的な栄養素です。また脳の機能にはビタミンB群や亜鉛などさまざまな栄養素が関与しているため、栄養療法がとても有効です。

そして特徴的なのは、若い女性にしては結構しっかりした脂肪肝があると考えられたことです。γ-GTP↑およびGOT↑は脂肪肝を表します。

また、甲状腺機能に明らかな低下が認められ、これも症状に関わっていました。これに対し、いわゆる甲状腺剤ではなく、ナチュラルな甲状腺ホルモンの補給を行いました。薬として認められているホルモン剤は、通常は体内で合成される形のホルモンではなく、手を加えて違う分子構造に変えられています。このため、副作用の問題が起きたり、効果が十分に出ない場合があります。このような場合、体内で作られているのと同じ(または非常に近い)構造の天然のホルモンを補うことで、副作用なく症状の改善が期待できます。保険外治療になりますが、欧米では盛んに行われている治療法です。
また、心理療法も患者様の助けになったようでした。

これらの複合的な治療により、症状は完全には改善されていないものもありますが、気持ちが前向きになり社会に出て活躍することができるようになられました。

経過

サプリメントを飲み始めて3ヵ月後に、うつ症状、過食はかなり改善した。5ヵ月後にはアルバイトをはじめるくらいに改善した。しかし波があり、精神的に落ち込むことが多く、心理療法を併用することで症状の改善につながった。
栄養療法を行ってもむくみや冷えの症状が強かったため、甲状腺ホルモンの検査を行ったところ、甲状腺機能低下症と診断された。甲状腺ホルモンにて症状はかなり改善した。
現在は治療をしながらアルバイトに励んでいる。

摂食障害 改善例8

主訴

摂食障害(拒食症)、無月経、パニック障害、不安神経症 女性 初診時18歳
中学2年生の時に、油と炭水化物抜きの自己流ダイエットを初めて、2年間で55キログラムの体重を37キログラムまで落とした。
中学3年生の時に、月経が止まった。
高校1年生くらいから、精神が不安定になり、抑うつ感、不安感、イライラ、自分に自信が持てないなどの症状が出てきた。
体がだるく、疲れやすい。脚が痛くなるくらい、パンパンにむくむ。たまに、息苦しい。
ニキビが、たくさんできるようになった。便秘している。
母親が心配して、根本から元気になるよう治療したいと考え、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

14歳時、165㎝55キログラムの体重が37キログラムまで減少したことと、強い抑うつ感のために、大学病院の精神科に6カ月間入院した。
入院中は、カウンセリングを受けるなどの行動療法と、抗うつ剤、安定剤、睡眠薬などの投薬療法が行われた。
現在も、薬を服用中であるが、自覚症状の改善がないので、効果がわからない。

治療方針

拒食症の者様では、るいそう(極度のやせ)のために無月経や生理不順などの婦人科疾患、うつ症状やパニック障害、脅迫神経症、イライラなどの抑うつ感などのさまざまな精神疾患を併発する方が多くいらっしゃいます。

同じ摂食障害でも、過食症と拒食症では内容がかなり異なります。拒食症の場合は、生命に危険を及ぼすほどの体重減少で衰弱していることが多く、身体的な治療は必要不可欠です。しかし、体の治療以上に精神的な治療も重要です。
「自信がない」「(必要以上に)やせたい。太りたくない」「食べるのが怖い。」「外見が異常に気になる」「他人の評価を(必要以上に)気にする」などの気持が大変強いため、栄養失調を改善するために栄養療法での治療は受け入れていただいても、カロリーを気にするあまり食事療法を守ることが難しく、本人、家族と治療者がチームを組んで根気強く治療をする必要があり、時間を要します。

上記のように栄養療法と精神的なサポートが、治療の重要な2本柱となります。

血液データ

基準値 初診時 3ヵ月後 6ヵ月後 9ヶ月後
赤血球 380-500 377 395 342 336
ヘモグロビン 11.5-15.0 12.9 13.3 11.8 11.7
GOT 10-40 57 89 79 104
GPT 5-45 75 95 128 205
γ-GTP 30以下 43 67 55 86
グリコアルブミン 200-452 119 126 117 102
総コレステロール 120-219 248 236 221 201
グルコース 70-109 85 79 97 73
亜鉛 70-132 72 83 75 74
フェリチン 4.0-64.2 32.1 59.1 63.7 52.7

ドクターコメント

人間のさまざまな病態の原因を、「車の故障」に例えると、まずは「ガソリン不足(8割)」と「エンジントラブル(2割)」に分けることができますが、 拒食症は「重症なガソリン不足(ガソリン切れ)」の状態です。通常はガソリンを満タンにするのに半年ほどかかる方が多いですが、拒食症では短くても1年を要します。
またたいへん興味深いのが、米国摂食障害学会の報告でも同様ですが、拒食症の患者様のほとんどが強い肝機能障害(脂肪肝が多い)がみられます。初診時の肝機能数値はそれほど問題がない場合でも、治療後3ヶ月から6ヶ月の間に、GOT・GPTが100以上まで上昇し、その後低下する、という経過がみられます。これは脂肪肝が改善する過程で、肝細胞からGOTやGPTなどの酵素が逸脱(漏れ出す)ためと考えられます。

サプリメントを飲める量がかなり制限されたこともあり、血液データ上、栄養状態が改善というよりも悪化しているように見えますが、タン白質不足による血液濃縮がある場合、治療によりそれが改善するにつれて、総蛋白やヘモグロビン等の数値は逆に低下してくることが多いです。まだまだこれから改善してくるデータであり、根気よく治療を続けることが必要です。

経過

精神科での心理カウンセリングは頻繁に受けていたのにもかかわらず、まったく改善されなかったことと、薬物療法でも改善されなかったこともあり、患者さま本人もご家族も栄養療法のみの治療をご希望された。
カロリーのある食事に対して抵抗感が続いたが、栄養療法はしっかり継続できた。徐々に、精神症状が安定し、不安感や抑うつ感、イライラなどがほとんどなくなり、気持ちが(本人、家族とも)穏やかになった。また、慢性疲労の症状が改善し疲れにくくなった。筋肉のハリや、息苦しさもなくなった。

大学受験のため「勉強しなくてはならない。」といったストレスで、不眠やイライラはあったが、勉強に集中できるようになった。無事に、現役で志望大学に合格した。

摂食障害 改善例9

主訴

摂食障害(過食と嘔吐)、月経不順、第二子不妊 女性 初診時32歳
高校3年からダイエットをはじめ、数年間で体重が70kgから42kgまで減少した。
22歳頃から過食と嘔吐がはじまり、初診時は毎日1~3回過食嘔吐をしていた。
立ちくらみ・めまい・疲れやすい・肩こり・便秘・湿疹・憂うつになる・落ち込みやすい・イライラしやすい・月経不順・月経痛・第二子不妊。
体重は48kgをキープしていたが、体重は変えないで過食と嘔吐を治したい、という要望で当院を受診した。

家族歴

第一子の言葉の発達が遅れている

治療歴

心療内科で1~2回カウンセリングを受けたが、効果を感じられず、やめた。

治療方針

まず貧血があることが大きな問題となります。これは複合的な栄養失調、すなわちタン白質・鉄・ビタミンB群・ビタミンC・亜鉛・カルシウム・マグネシウム等の不足により起こります。

全身の細胞に酸素を運ぶための大切な赤血球が作れないような栄養失調状態では、当然体のほかの部位も影響を受けていると思って間違いありません。疲労や倦怠感などの症状はもちろん、精神症状や免疫力の低下、ホルモンバランスなどにも影響します。

とくに女性の方は、体重が正常範囲でも、栄養失調によってホルモン分泌がうまくいかなくなり、無月経や月経不順・不妊症の原因となります。
これらに対する治療として、栄養療法と食事療法を行いました。

血液データ

基準値 初診時 4ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 10.2 14.9
ヘマトクリット 34.8-45.0 35.1 51.1
GOT 10-40 17 23
GPT 5-45 11 25
γ-GTP 30以下 13 15
グルコース 70-109 74 78
グリコアルブミン 12.3-16.5 14.4 13.4
インスリン 1.7-10.4 2.3 2.0
フェリチン 4.0-64.2 3.8 26.5

ドクターコメント

貧血が素晴らしく改善しています。逆にやや高めの数値ですが、これはタン白質不足による血液濃縮が完全には改善していないためと考えられます。
フェリチン値もまだ低めではありますが、大幅な改善です。
GOT・GPTも適度に上昇しており、ビタミンB6が充足していることを表します。

経過

治療開始1ヶ月後、生理痛が改善。
2ヵ月後に自然妊娠。それと同時に過食がぴったりおさまった。しかし妊娠8週で自然流産。
治療開始4ヶ月後、過食はぶり返しているが食べる量は激減している。
不妊のための栄養素も加え、栄養療法を継続中。

摂食障害 改善例10

主訴

摂食障害(過食と嘔吐)、無月経 女性 初診時29歳
10年前から、過食と嘔吐を、毎日1~2回を繰り返している。
高校時代に、63キログラム以上あった体重を、自己流ダイエットで1年間でマイナス16キログラム減量して48キログラムになった 。
その後、受験のストレスが原因か、過食しては太りたくないため吐くようになり、42キログラムまで 減った。
社会人になり、激務のために37キログラムまで体重が落ち、生理がなくなった。
立ちくらみ、めまい、強い冷え性、耳鳴り、立っていられないほど疲れるなどの症状で、仕事を休職 し、当クリニックを受診した。

既往歴

なし

治療歴

心療内科で、デプロメール(25)2T×2、レスレン(25)2T×2、マイスリー 1T×1などの抗精神薬を 処方されたが、効果がなかったので自己判断で服用を中止した。
無月経のため、1年前に婦人科を受診。子宮と卵巣が萎縮をしていると診断された。

治療方針

栄養失調が強く、さまざまな症状を訴えていらっしゃる、過食症の典型といえるような患者様です。 前述しましたように、栄養失調と低血糖症は過食症を起こすかなり中心的な原因となっています。 そして同時に多様な症状を合併します。
このため、まず栄養素の補充、血糖値が安定するような食事指導を行いました。

また、摂食障害の患者様はもともと知的レベルが高く、体型においても自分の理想とする確固たる パターンをお持ちの方が多いのですが 、それにこだわりすぎてしまい、病的な栄養失調状態を招き 、さらに摂食障害や精神症状などが強くなり、体調も悪化する、という状態を起こしてしまいます。

この患者様は栄養療法だけでかなり改善されましたが、やはり心理療法も併用していくとよいように思われます。

血液データ

基準値 初診時 5ヵ月後
ヘモグロビン 11.5-15.0 14.8 13.2
ヘマトクリット 34.8-45.0 46.2 40.5
GOT 10-40 25 22
GPT 5-45 17 13
γ-GTP 30以下 15 12
尿素窒素 8.0-20.0 10.4 15.1
グルコース 70-109 82 84
グリコアルブミン 12.3-16.5 14.3 13.5
インスリン 1.7-10.4 2.1 2.0
フェリチン 4.0-64.2 23.8 44.3

ドクターコメント

データはかなり素晴らしく改善しています。
まず初診時のヘモグロビンやヘマトクリットが高く、血液濃縮があることがわかります。これが5ヵ月後には低下していることから、血液濃縮が改善したということがわかります。

血液濃縮はタン白質不足のために血液中の水分が減少して起こりますが、循環血漿量が減少しているために、一見貧血には見えなくても 貧血様の症状、すなわち疲れやすい・冷え・立ちくらみ・めまい・息切れ・むくみなどが起こります。タン白質の摂取によって改善します。

GOT・GPTの低値はビタミンB6の不足を表しますが、初診時も低値でしたが、5ヵ月後にさらに低下しています。この場合は、脂肪肝などの理由で初診時の数値が実際よりも高めに出ていたことを意味します。改善してはいますが、実際にはまだビタミンB群の不足があると考えられるため、治療の継続が必要です。
また、フェリチンも改善しており、脳機能などにもよい影響を及ぼしていると考えられます。

経過

治療開始3ヶ月後、復職できた。きちんと、仕事がこなせるようになって、嬉しい。
治療開始4ヶ月後、過食と嘔吐は、激減した。現在は、1週間に、1~2回程度になった。
立ちくらみ、めまい、強い冷え性、耳鳴り、立っていられないほど疲れるなどの症状は、ほとんどな くなった。また、仕事に意欲も湧いてきた。
生理はまだ来ていない。
つい、ストレスがたまって甘いものを食べてしまうと、過食してしまうことが分かったため、低血糖症 の食事療法も取り入れるようになった。